書籍の紹介
著者のプロフィール
磯野 真穂
1999年、早稲田大学人間科学部スポーツ科学科卒。
オレゴン州立大学応用人類学修士課程修了後、早稲田大学文学研究科博士後期課程修了。
博士(文学)。
国際医療福祉大学大学院准教授を経て、2020年4月より独立。研究者として慶應大学大学院に所属する。
専門は文化人類学、医療人類学。
著書に『なぜふつうに食べられないのか――拒食と過食の文化人類学』(春秋社)
『医療者が語る答えなき世界――「いのちの守り人」の人類学』(ちくま新書)、
宮野真生子との共著に『急に具合が悪くなる』(晶文社)がある。
この本に書かれていること
やせれば「かわいくなった」、「かっこよくなった」と褒められ、素敵な洋服も苦労することなく着ることができる。やせたら初めて告白されたという人もいる。
あなたがどういう体型であるかで、あなたがどういう人間であるかの判断材料にされてしまうのが、現代の日本社会。
その中で、みんなと同じくらいの体型であること、あるいはそれより少しやせていることは、他人から受け入れてもらうためにまずやらなければならないことに見えてしまう。
そういった価値観が「当たり前」なものとして社会から刷り込まれていくことで、私たちのやせたいという思うようになっていく。
私たちは、人から認められること、愛されることで存在意義を見出そうとする。
他人の評価ばかりを気にするようになると、自分の判断基準、自分の感覚が失われていく。
何が美味しいのか、何が楽しいのか分からなくなってしまうという。
自分の存在意義は、人からの評価によらず、自分の今までの行動、そしてこれからの行動、世界とのかかわり合いの中に見出すべきである。
そして自分とともに一緒に行動し、共に世界との関わり合いを共有できる存在に目を向けることこそが、やせることで幸せが訪れるというダイエットの幻想から距離を取り、他人の声に漂流することなく生きるための方法である。
印象に残ったところ
著者は、数字による管理、つまり食べ物を栄養素に置き換え、身体を体重や体脂肪といった数値に変換し、自己管理をすることは、楽しさや美味しさなどの彩りを世界から消し去ってしまうという。
本書の中では、夜行バスで出発する彼女のために、お腹をすかせて具合が悪くならないように、彼氏がおやつにバナナチップスチョコを用意してくれたエピソードが紹介されている。
おいしいとは、単に味がおいしいというだけではなく、その背景の物語も含めておいしいと感じるのである。
もし、仮にその彼女がダイエットをしていて、食べ物を単なる栄養素とカロリーとしかみていなければ、このようなかけがえのない物語がすべて消えてなくなってしまうだろう。
この話を読んで自分に立ち返ったときハッとした。
あまりにもダイエット一辺倒になるばかり、「ダイエット中だから」という言葉を免罪符に、こういった大切な物語を消してしまってはいなかっただろうかと反省した。
行動しようと思ったこと
他人からの承認を得るために、自分を変えることは当然とされる世の中にあって、それはある程度必要なことではある。
しかし、ダイエットをするにしても、承認欲求からのダイエットを行うのではなく、「踏み跡を刻む行動」の一端としてのダイエットを行おうと思う。
大切なことを見失わないために。
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